チワワの散歩は自由気まま

「散歩のとき自由気ままに動き回り、飼い主さんの指示に従わない」という相談を受けました。会いに行くと、チョコレート色のチワワが家の中を自由に走り回っていました。私に飛びつき、バッグを引っ張り、ジャケットを振り回すという熱烈歓迎を受けました。飼い主さんは「やめなさい!」と一緒になって走り回っていましたが、かえってチワワを興奮させるだけなので、やめるようにお願いしました。この場合は、バッグとジャケットを「チワワ」の届かないところに置くのが正解です。

まずは家の中でのトレーニングを見せていただくことにしました。飼い主さんがチワワを呼ぶと、一応はそばに来ます。おやつを握って「オスワリ、マテ」と指示を出すと素直に従いましたが、「ヨシ!」の声とともに走り出し、タイルカーペットを一枚くわえて走り出しました。あわてて捕まえようとする飼い主さんに、追いかけるのをやめるよう再度お願いしました。

チワワは「追いかけてもらいたい」のです。案の定、私たちが興味のないそぶりを見せると、タイルカーペットを置き去りにして、次のターゲットを探しています。「オスワリ」や「マテ」くらいだとチワワを飽きさせてしまうようなので、もっとトレーニングのレベルを上げることにしました。賢い犬は、すでにできるトレーニングに飽きてしまうことがあり、もっとおもしろい遊びに誘ってきたります。

そこで、チワワが嗅覚を使える遊び「さがせ!」をやってみることにしました。まずチワワを別の部屋に連れて行き、見えないように部屋のところどころにおやつを隠しました。チワワを連れ戻し「さがせ、さがせ」と声をかけてやると、チワワは、鼻を使って一生懸命探し始めました。

全部見つけるまでに3分くらいかかったでしょうか。チワワは一度もふざけずに一生懸命探し回りました。チワワの能力をできるだけ伸ばしてやるためにも、単調なトレーニングは控えて、好きな遊びも取り入れながらどんどんステップアップさせるようアドバイスしました。

同時に飼い主さんとの関係も見直さなくてはなりませんので、まずはベースプログラムを実施してもらいました。

3週間後、再びチワワに会いに行きました。いよいよ課題であるお散歩のトレーニングを始めます。飼い主さんとチワワは子犬のしつけ教室に参加したことがあるそうなので、まずはそこで教わったトレーニング方法を見せていただくことにしました。

「よーし、よし!」。飼い主さんは男性には少々似合わない(?)やさしい声で話しかけながら歩き出しました。

大きな体を一生懸命折り曲げながらチワワの近くまで顔を近づけ、たまになでておやつを与えながら歩いていました。

私は少し後ろからその様子を観察していたのですが、何かおかしい……。チワワがあまりうれしそうではないのです。ご主人は一生懸命ほめてごほうびまであげているのに、喜んでいないのです。チワワは意外と食いしん坊なはずなのに、なでるご主人の手をイヤそうに避け、おやつはそっぽを向いたまま「囗に人つたから噛んでいる」という感じでした。

私は、子犬のしつけ教室で教わった方法がチワワには合ってない、あるいは合わなくなってしまったと判断し、思い切ってチワワのお散歩トレーニング方法を変えることにしました。

ますご主人と代わってチワワと一緒に歩いてみることに。お散歩レッスンの基本は、リードを短く持ち、視線はできるだけ正面に向け、愛犬を見ないようにゆっくり歩きます。そして数メートルごとに立ち止まり、無言で犬のお尻を押して座らせます。それだけです。あまり高度なことをお願いしても、毎日実施するのは雜しいので、簡単な方法を提案しました。

お尻を押すときは、先生になったような気持ちで「お座りなさい」という感覚を伝えるように。座るまで押しつぶすのではなく、最初は補助の気持ちで導くのです。このときの犬の抵抗で、愛犬がどれくらい飼い主の力に従う気があるかわかります。

チワワのように訓練性能の高い犬種は、指示を出しすぎては逆効果で、自分で考えさせることが大切です。お尻を押して座らせる場合も、途中まで押してやり、[お尻を下ろせばいい」と気付くまで一定の力を加えて途中で止めておきます。自分の意志でお尻を下ろし始めたら、「いい子だ」などとすばやく声でほめて手をすっと引いて押すのをやめます。このとき、愛犬との会話が始まるのです。

同じルールを共有して歩けるようになったら、お散歩は本当に楽しくなるはずです。

さすがチワワ、しばらくすると自ら素直に座りました。少しだけ胸をなでてやりましたが、チワワはあまりうれしそうにしないのですぐにやめました。チワワがうれしくなければごほうびにはならず、行動の強化もできません。嫌がっている場合には罰になってしまいますので、注意が必要です。

いつでも誰にでもなでられたいと思っている犬は、そう多くはありません。とくに日本犬にはさわられるのが嫌いな子が多いです(もちろんそうでない子もいますが)。

ゆっくり歩いて止まり、座らせて言葉で軽くほめて、という作業をしながら歩き続けていると。チワワの様子がどんどん変わってきました。いつもはさんざん話しかけられるのに、そうではないことに違和感を感じたようで、かえって私へ意識を向け始めたのです。振り向くまではしませんが、鼻先が私の方へ向いたり、耳が動いて私の声に反応しているのがわかります。

ふだんからしょっちゅう名前を呼んでもらったり、「かわいいね」とほめてもらったり、なでてもらったりしている子は、トレーニングの際にほめられても反応が悪かったりします。そういう場合は、ふだんの生活のなかで無視する時間を作ることによってこちらの存在を意識させ、相手からこちらに関心を寄せるようにするとよいでしょう。あ、もちろん犬の話です(笑)。

私と歩き始めてから10分も経たないうちに、チワワは私が立ち止まるとすぐに立ち止まり、手でお尻を押さなくても自ら座るようになりました。学習が早い! そこで飼い主さんに交代しました。

「姿勢はまっすぐです。もっと顔を上げて!腕に力が入りすぎです。1回、深呼吸しましょう。腕は曲げないでなるべく動かさないように、体の横に付けておいてください。はい、歩き出してください!チワワを見ないで!危ないから前を向いて!チワワの動きは、できるだけリードから感じ取るようにしてください!しばらく話しかけないで歩きましよう!」

チワワはすぐに飼い主さんの変化に気付き、飼い主さんの動きを気にするようになりました。先ほどまでと違い、話しかけてくれないし、なでてくれないし、おやつもくれなくなったので、気になるようです。いつものパパと違うので、引っ張ろうとしてみたり、私のときには座ったのに、飼い主さんが止まっても座らなかったり、ささやかな抵抗を見せます。

でもじきに素直に歩き、座るようになりました。かなり良い状態になってきたので、チワワをほめてやるようお願いしました。

「グーッド!」と飼い主さんが言うと、チワワは初めて飼い主さんを見上げ、しっぼを振りました。愛犬と会話ができたと感じる、たまらない瞬間です。

散歩中に声をかけすぎると、犬が飼い主さんに集中しなくなります。声をかけるのは、上手に歩けたり、横断歩道で立ち止まったり、何か気になるものを遭遇して気をそらしたいときなどに限ってください。そうすると愛犬との自然な会話が成り立ちます。

チワワにとって、今までのトレーニング方法は「かまいすぎ」だったようです。学習能力が高い犬の場合は、手取り足取りやりすぎないようにして、「どうすればいいんだっけ?」と犬自身に考えさせることも意識してトレーニングするとよいでしょう。

湘南の海沿いを、息もぴったりに颯爽と歩いている男性&チワワを見かけたら、それは彼らかもしれません。