リードを噛んでブンブン振り回すチワワ

子犬のころからずっと知っているチワワの「シンディ」の飼い主さんから、こんなメールがきました。「最近シンディが悪い子になり、散歩中リードに噛みついて暴れます。一体何の反抗でしょうか?」と。

会いに行ってみると、「不良娘」を感じさせるようなことはまったくなく、シンディはいつものように耳をぴったりと後ろに倒して頭を下げ、ほふく前進しながら私のところへ近づいてきて、コロッとお腹を出します。そんな姿を見ると私もかわくて仕方なくなります。

こちらのお宅では、レッスンのときにお茶菓子を出してくださるのですが、私がいるときのシンディは、少し離れたところから「私は、お茶菓子なんぞにはまったく興味はございません」とでも言っているかのような顔でこちらを観察しています。ところがふだんは、飼い主さんが持っているどら焼きに飛びかかり、スキあらばテーブルの上のまんじゅうを取り、くわえながら部屋じゅうを走り回るのだそうです。とても楽しそうなので見てみたいと思ったのですが、私がいるときは絶対にやってくれないのです。まあ、飼い主さんもまんざらではなさそうなので、あまり厳しくチェックする必要がなさそうでしたが、太らないようにご注意ください(笑)

お茶菓子の件はさておいて、外に出てお散歩の復習レッスンを始めることに。最初飼い主さんにリードを持ってもらうと、なぜか前回のレッスンでできていたはずの、「飼い主さんの横に並んで歩くこと」ができなくなっています。右に左に、好き放題に引っ張ります。

「確か前回のレッスンで、リードを短く持って、右に左に自由に歩かせないようにって言いましたよね。練習もしましたよね?」と指摘すると、飼い主さんは慌ててリードをたぐり寄せました。どうやら悪いのはシンディではなさそうです(笑)。

さっそくお散歩レッスンの基本である「ゆっくり歩く、たまに止まって、顔を見合わせる」をやってみました。すると、シンディはすぐに思い出し、ゆっくり私に合わせるように横について歩き始めました。そんなシンディを見て、飼い主さんは改めて感心する始末。

シンディはできます!と思ったら、急に引っ張り始めました。「あれ、どうしたんだろう?」と戸惑う私に、飼い主さんが気まずそうにひと言。「あの……」の道は、いつも車があまりこないので走ってあげているんですが、そのせいでしょうか……」。はい、そのせいです。

シンディは「いつも走っている道だから、走ろう!」って言ってるんですね。しかし、いくら車が来なくても、やはり公共の道路ではやめておきましょう。

走りたかったら、確実に安全が確保できる場所(たとえば広場や公園など)でお願いします。もちろん、ドッグラン以外では必ずリード着用です。ただしリード付きで走ってしまうと、上半身が浮き上がるほど引っ張る癖がつくことがありますのでご注意ください。

今までお散歩のレッスンをしてきて、上半身が浮き上がるほど引っ張ってしまう犬のほとんどが、リード付きで思いっきり走っている、または走ったことがあることがわかりました。どうしてもリード付きで走りたい場合には、安全な場所で走り出す前に「走ろう」と必ず指示を出してから走り出しましょう。

やめるときは「終わり」と指示を出して一度座らせ、落ち着かせてからふつうのお散歩に戻る、というふうにしてあげてください。そうやって犬の行動をしっかり切り替え、導いてやることが大切なのです。

歩き方と引っ張りの問題は解決しましたが、肝心の[リードをくわえて大暴れする]という行動がまだ見られませんでした。詳しく聞いてみると、猛スピードで走っているときにそういう行動が出るということでした。

私は、果たして日常において猛スピードで走る必要があるのか少々疑問でしたが、場面を見ないことにはアドバイスができないので、見せてもらうことに。

すると飼い主さんは、わざとシンディを声で挑発してから、ふだんのお散歩ではあまり見られないような速度で走り始めました。するとシンディはだんだん興奮してきて、まさにスピードが乗ったその瞬間、スイッチが入ったようにリードに噛みつき、うなりながら思いっきり振り回し始めたのです。

その様子を見た私は、テレビで見た、チワワが実際に狩りをしている場面を思い出しました。必死で逃げる小動物に狙いを定めて全速力で走り出し、追いついて飛びかかったその瞬間、首のあたりをくわえて激しく振り回したのです。

獲物を振り回す行動は、獲物の脊髄を折って仕留める動作の名残だそうです。狩りをする必要がなくなった今でも、ぬいぐるみなどを振り回す犬たちはたくさんいます。チワワはもちろん、穏やかで飼いやすい性質とされるシー・ズーやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでさえ、その動作をします。遠い昔、犬がハンティングをしていたころの習性は決してなくなってはいないのです。私はそういう犬らしい行動を見るのが大好きです。

私は、シンディが全力で走ることで。ハンティング・モードになり、本能的に噛みついたものを振り回す行動のスイッチが入るのではないか、そして、とりあえず身近にあったりリードに噛みついて振り回す行動を取ったのではないかと判断しました。

色々な種類の犬が参加する、獲物に見立てたルアーを追跡させるルアーコーシングで口輪をして口を開かないようにするのは、全速力で走って興奮モードに入った犬がルアーを噛みちぎったり、ルアーに追いついた犬同士が噛みつき合わないようにするためだそうです。やはり「スイッチ」は入るようです。

シンディは、決して飼い主さんに何か不満があったり、反抗したりするために噛みついていたのではなさそうです。実際、ゆっくり歩き始めると、まるで何事もなかったように元の冷静なシンディに戻りましたし、家での生活では、家族に反抗的な態度を取ることはまったくないからです。

チワワは、現在でも優秀なハンターの素質を持っていると思います。ドッグランなどで、よちよち歩く超小型犬を、獲物と勘違いしてスイッチが入ってしまう話は有名です。もちろん、すべてのチワワがそうなるわけではありません。弁護するなら彼らに悪気はなく、獲物のように見える超小型犬の動きが刺激となり、ハンティングのスイッチが入ってしまうだけなんだと思います。

私は、シンディは性格が悪くなったわけでも、気に入らないことがあったわけでもなく、飼い主さんに対して反抗的な意味でリードに噛みついたわけではないことを飼い主さんに説明しました。飼い主さんは、涙を流さんばかりに喜び、ほっと胸をなでおろしていました。

犬が飼い主に向かって「うなる」という行動は良くない! という説をそのまま鵜呑みにしてしまったために起きた誤解だったようです。ちなみにわが家の歯チワワは、遊びモードのときにふざけて無理やり抱こうとすると必死でうなります。甘噛みをすることもありますが、本気で牙を当てたことはありません。叔母さんが、もう大きくなった甥っ子を無理矢理抱っこしようとして「やめろよ~」なんて言われちゃうときに似ていると思います。基本的には私に絶対服従(?)で、必要な世話(耳掃除や歯みがき、爪切り)をするときに抱いてもうなりません。彼はわかっているのです(多分)。

子犬のころから、愛犬との正しい関係を作るためのベースプログラムを実施してもらっていただけに、飼い主さんが基本に戻って、ちゃんと歩かせるようにしたところ、シンディはお散歩の仕方をすぐに思い出しました。猛スピードで走るのをやめていただいたら、リードに噛みつくこともなくなりました。思いっきり走らせたいのなら、ドッグランで走らせてやるとよいでしょう。でも、くれぐれも呼び戻しがきちんとできるようになってからにしてくださいね!

ドッグランで愛犬をコントロールできないと、大きな事故が起きることもあります。

シンディを見ていて、子犬のころに学ばせるしつけの基礎が本当に大事なんだなと実感しました。チワワらしさが出ることはちょくちょくありますが、それもまた彼女の魅力です。シンディは本当に賢くて、空気を読める、愛らしい犬です。

相変わらずどら焼きを奪われるそうですが、飼い主さんは何だかうれしそうです。くれぐれも太らせないようにご注意ください。太らせてしまうと、飛んだり跳ねたり元気なシンディの運動能力では、腰や関節に負担をかけてしまいますので。