親子のチワワが大喧嘩

チワワの『さくら』が母犬の『チェリー』を噛んだ」という相談を受けました。画像が添付されていたのですが、後ろ足の付け根が真っ青に腫れ上がっていて、数針も縫うケガを負ったとのことでした。

お互い顔あたりに小さな傷を作るくらいのケンカなら、あまり深刻にとらえる必要はありませんが、後ろ足となると少々心配です。逃げる相手に後ろから噛みついた可能性があり、それなりに攻撃的な噛みつきであると言えるからです。

8年くらい前になりますが、ある犬が他の犬のお腹に噛みついて殺してしまうという事件がありました。また5年くらい前に人から聞いた話では、ご近所で散歩をしていたトイープードルがシベリアンーハスキーに襲われ、慌てて抱き上げたらお腹に噛みつかれてしまい、そのまま亡くなってしまったという事件もあったそうです。このハスキーも、リードが付いていなかったそうです。どちらのケ-スも、噛みついた犬たちが悪いのではなく、飼い主のしつけや管理が悪いのです。

私はさっそく、チワワのチェリーとさくらに会いに行きました。チェリーはとても明るく人なつっこい子でしたが、つねにさくらの動きを気にしてピクピクしている様子がわかりました。

さくらのほうはしっぽを高く上げ、チェリーの動きを見張っていました。少々異常に感じられるくらい興奮し、スキがあったら飛びかかりそうな気配で、獲物を狙っているようにも見えました。2頭の様子は、小競り合いのように気楽に見守れる雰囲気ではなく、緊張感がありました。

チェリーはこの家でさくらを産み、飼い主さんはまさに赤ちゃんのころからさくらを育てていました。「だからかわいくてしょうがなくて甘やかしてしまった」と飼い主さんは反省していました。もちろんチェリーもかわいいけれど、さくらは別格なのだそうです。

その気持ち、とてもよくわかります。自分で取り上げてお乳を飲ませ、排便を手伝い、離乳食を作って育てたチワワは、数力月齢で迎えたチワワとは違った愛情が芽生えます。だからこそしっかりとしつけなくてはいけないのですね。耳の痛い話ですが、幸いわが家のアトラスは、毋犬や先輩のオス犬を傷つけたことはありません。体の小さな兄貴分であるアクセルに、今でも低い姿勢で服従するポーズを取っています。

溺愛されたさくらが自分の立場を誤解し、母犬であるチェリーにチャレンジしようとした可能性はあります。じつはこのような母娘のケースは、それまでにいくつか見たことがありました。これは私だけの事情かもしれませんが、血が流れるほどのケンカが起きたのは、すべて群れのメス同士でした。

チェリーとさくらの飼い主さんには、ケンカを止められるくらい群れでの存在感を持っていただくために、犬との正しい関係を作るためのベースプログラムを実施してもらいました。

そしてさくらの誤解を解くために、チェリーのゲージを飼い主さん一家が集うリビングルームに、さくらのゲージを家族があまり足を踏み入れない別室(ピアノ部屋)に置いてもらい、次回私が訪問するまで2頭を接触させないようにしました。

1ヵ月後伺ってみると、別室のさくらの様子がだいぶ穏やかになってきたように感じたので、さくらとチェリーを引き合わせてみることにしました。チェリーがいるリビングルームにさくらを連れてきてもらい、部屋の隅につなぎました。最初チェリーは、さくらとなかなか目を合わそうとしませんでした。まだ多少怯えて、警戒している様子です。

一方のさくらは、一生懸命チェリーを目で追っていましたが、私が最初に見たときのような異常な興奮や、獲物を追うようなギラギラとした攻撃的な目つきはありませんでした。普通に興味を持っている程度だと言っていいでしょう。「一緒に遊びたいのかな?」とも思えるような動きもありました。

リードの長さ以上はさくらが動けないとわかると、チェリーはだんだんさくらに近づくようになりました。さくらが寄ってくると少し離れて、振り返りながら観察しているようでした。それからしばらくすると、チェリーはソファの上で、さくらリードにつながれたまま床の上で眠ってしまい、穏やかな時間が流れ始めました。これが、母と娘、1ヵ月ぶりの再会の様子です。

それからさらに1ヵ月後、私は再び伺いました。さくらの表情はさらに穏やかになっていたので、リードを付けたままリビングに放してみることにしました。さくらの行動が自由になると、チェリーに少々緊張感が感じられたものの、ニオイを嗅いだり嗅がせたりして、お互いに適度に距離を取り合っているようでした。さくらがチェリーを遊びに誘うのですが、チェリーは興味がなさそうに無視して距離をとっていました。

仲良く遊ぶ様子は見られませんが、ケンカが始まりそうな気配もありませんでした。そこでさくらのゲージをリビングに移動して、さくらをゲージから出してみましたが、チェリーと一緒にするときはリードをつけたままで。万がいちケンカが起きても止めに入れるよう、必ず飼い主さんがそばにいて監視するようお願いしました。

さらにその1ヵ月後。ケンカする可能性はきわめて低くなったと判断し、さくらのリードを外すことにしました。まだ安心はできないので、今後も何事にもチェリーを優先する付き合い方を続けるようお願いしました。さくらをゲージから出す時間は、長くなりすぎないよう、最長でも30分。多くて1日3~4回にしてもらいました。

群れでケンカが起きる場合には、犬たちの順位も大事ですが、群れを見守る飼い主さんの存在感も重要です。人間だって、社長や先生、目上の人の前ではケンカしにくいですよね?

犬の群れで起きるケンカは、ほかのメンバーが止めることがあります。なので、飼い主さんにも止める権利があるのです。もし群れのなかで深刻なケンカが起きて、負傷する個体が出たとしたら、獲物と闘うときの戦力ダウンになるはず。勳物たちは、それを本能的に避けるようにしているのではないかと思うのです。

獲物を捕って生活する動物には、群れ内のケンカを避けるために「順位」が必要だったと考えます。たとえば5頭の群れでウサギを1匹捕ったとします。ウサギが2頭のお腹しか満足させることができない大きさだとすると、順位に従って上位2頭がウサギを食べて、あとの3頭は、「何だ、私たちには回ってこないんだ」と、すぐにあきらめるので、それを奪うための争いは起こさずに済みます。

でも、もしこの5頭が同じ地位で同じくらいの力を持っていたらどうでしょう? みな力ずくでウサギを食べようとして争いになります。結果的に負傷者が出て、次にシカのような大物が現れても、戦力が足りずに仕留められない、ということになりかねないのです。

自分たちで獲物を捕る必要がなくなった現代の犬たちは、順位が必要な場面があまりないので、意識は薄くなっていると思います。

しかしいざというときには、犬たちには順位の意識があるのだと、わが家の群れを観察していて感じることがあります。とくにオス同士のあいだではわかりやすく、メスはまた特別な立ち位置があるようです。

順位付けの訓練はとても重要です。ここをしっかりしておかなければなりません。チワワの基本的なしつけについてはチワワのしつけについてのサイトを参考にするのがわかりやすいと思います。

上手に多頭飼いするポイントは、平和を保つために群れの順位を意識すること。飼い主さんが群れをまとめ、しっかりと決定権を持つことなのではないかと思います。